改訂・北海道面白川名散歩 No.0002

【身近な川】

 都市部だけでなく、洪水があったり痛ましい事故が起こるたびに「キケンなところ」として河川改修が行われたり柵囲いされたりで、生活の中でどんどん身近さが感じられなくなっている川ですが、先ずは川名を通して親しみを回復していただきたく思います。

これらの名前は、それほど遠くない地域の中で呼び習わされていた名前でしょう。もちろん、アイヌ語に当て字した名前もあると思います。

●手前の沢川/前乃川

何かの手前に…と言うと決して近いだけのイメージではありませんが、向うの…と言うよりは身近さがあります。それより、何(何処)を基準にしてこんな呼び方をしたのかとか、どれだけの人達に通じた名前なのだろう…と考え込んでしまいます。

天塩川の大支流・サロベツ川が作り出したサロベツ湿原の川々は干拓事業によって川筋が相当に直線化されていますが、それでもなお原始の姿をとどめている(と感じさせられる)のは、人知をはるかに越えた自然の大きさなのだろうと感動してしまう。

サロベツは、アイヌ語のサル・オ(オマ)・ペッ(葦原に・ある・川)という意味で、観光パンフレットなどに載っている「広大・無限」などという意訳は、アイヌ民族を尊重する上からもするべきではない…とか言いながら、私もこの本では全体ちょっと茶化し気味ではありますが…悪気はナイ川。

「手前の沢川」は、この湿原にあるペンケ沼(トー)に水を運ぶ、下エベコロベツ川支流・福永川の最上流にある小支流(2.5Km)です。最上流部で手前というのは何かいわれがあるに違いないが、散歩程度の気持ちでは知ることは難しい。

枝幸町に河口を持つ北見幌別川は、徳志別川と並んで河口から十キロ程で歌登町を遡る。道道一二○号に沿って両川の本支流を十数本眺めたが、天塩川と流域を分ける北見山地に水源を持っているだけあって素晴らしい清流揃いである。「前乃川」とはお相力士名の様だが、枝幸・歌登両町の北に向ける区画線を導いている北見幌別川支流・イタコマナイ川が、歌登町側に放った小支流(2.6Km)。

●角の川/カド川

「角の家に塀ができたんだってねー。カッコイイー…」と、小話しのネタにも登場するほど“角”は身近な所です。カド川とのの字が無いと、どこかの出版社名の様でもあります。

角地というのは古くから地価の高い所とされていて、父母の時代にはそこに建つお屋敷や住人に対して、小さくない羨望や畏敬の気持ちを持っていた様です。そう言うとちょっと敷居が高くなりますが、私の記憶にある角屋敷にはとてもやさしいおばさんが住んでいて、美味しく嬉しい思い出があります。

石山軟石塀の内側は伺い知ることはデキナイ川でしたが、隣接する広い畑には胡桃があり、杏があり、李桃があり、梨があり、グスベリがあり、カリンズがあり…。まだ何かあったような気がしますが、夏を過ぎると貧乏家庭の子供…私にとっては嬉しい毎日でした。

親は「よその家のもの取ったらダメ」とかミエをはったりしましたが、うちには畑も無しおやつも無し…。

角屋敷のおばさんは「いーよ~、だまってても落ちちゃうからね~。たべなさ~い…お腹こわすんじゃないよ~」と親のテレ臭さもフッ飛ばして下さった。

角の川は、仁木町・西町近くで余市川から分かれる砥(ト)の川の小支流。カド川は、森町・蛯谷の蛯谷川に肩を並べている小川です。

●ウラガ川/裏の川

白糠町に河口を持つ茶路(チャロ)川が、上茶路からさらに上流の二股(地名)でタクタクペオペツ川を分けます。この川は、白糠町からの国道三九二号を釧勝峠に導いており、最上流の枝沢にウラガ川(2.5Km)という名前が付けられています。

浜中町・霧多布には、下流部が入江だか沼だかよくわからない琵琶瀬(ビワセ)川があります。訪れたことがないので入川できる川なのかどうかわかりませんが、地図上この川のはじめの支流に一番沢川があり、「裏の川」は一番沢川の小支流(1.0Km)です。

霧多布は、キ・タッ・プ(茅を・刈る・処)に当字した名前といいますが、夏場に霧の多いこの地に相応しいロマンチックな当字だと思いまセン川。琵琶瀬川は、ピパ・セイ(からす貝の・貝殻)というアイヌ語に当字した名前だそうです。

●表の沢川/向川

父方の親戚に小樽市・張碓に住んでいた人がいた。家の向かい(玄関先)には張碓川が深い谷を穿って流れていたが、これはまさに表の沢川(!)。

「表裏一体」という言葉がありますから、裏があったら表もあっていいはずだと思って探しに探したら、やっぱりあった。遠別川中流部の支流で、遠別町・東野で左岸に注ぐ小沢(2.5Km)でしたが、この山奥の地にあってなぜ表なのかはさ~っぱりわからない。

向川は、玄関をあけたらすぐ目の前を流れていたり、窓から覗いて見えるような、ごく身近にある川を感じさせる名前だが、やっぱり何の向かいなのかわからない。

島牧村・泊に河口を持つ泊川は私好みの川ですが、ザ・ザ・ザァーンネンながら同町の千走川同様周年禁漁の川。この川の畔には宮内(グウナイ)温泉があり、1~2度つかりに行ったことがあるが、温泉のわきを流れている沢が宮内川で、向川(2.5Km)は対岸の少し下手に注いでいる。もしかして「温泉の向かい?」という意味なのかな~…。

●内の沢川/内川

内の字はナイ(アイヌ語で川の意味)と読ませることが多いのですが、ここでは両方ともウチと発音します。まるで私有物のような感じになってしまいますが、似たような私有物的川名は少なくありません。

空知川は、南富良野町・金山の金山ダムから十キロほど上流の落合で左右に大きく分かれ、シーソラプチ川(本当の空知川)とルーオマンソラプチ川(道が奥の方へ行っている空知川)と名前を変える。内の沢川(3.5Km)は、落合の市街で分かれるルーオマンソラプチ川のはじめの支流。

内川(4.3Km)は、寿都湾に注ぐ朱太川の、名前を持っている支流としては最上流に位置する川です。(続く)