改訂・北海道面白川名散歩 No.0001

【プロローグ】

 「面白さ」を感じさせる名前というのは、ウケ狙いの芸人や売らんかな商品などに限らず、姓名・地名などにも実に多い。

 もちろん「面白さ」は人によって感じ方が異なり、「滑稽である」意味の可笑しさや「興味深い」という意味合いでの「面白さ」まで様々だが、北海道地名・川名の面白さは、アイヌ名登録にあたった調査官(教養が高かった?!)の、アイヌ語の音への宛て字(漢字)や、カタカナ表記が作り出していることが多いように感ずる。

またアイヌ名ではないが、開拓時に入植者の出身地への思慕の念や郷愁から本州名を引用したり、開拓時後のできごとが名前の起源になっていることも少なくない。

たとえば「コックリ湖」という名前の湖をご存知だろうか…。ネット上で紹介されることが増え、蘭越町・初田の道道229号沿いに看板が立っているので目にしている人も増えたと思うが、40年くらい前には知る人ぞ知る秘境(というほどでもないが)だった。

尻別川河口近くの支流・森別川の水源になっている湖だが、沼と言ったほうがあたっているくらいの、こじんまりとした湖です。

麗らかな日に湖を一周して、湖面を眺めながら草むらで陽なたぼっこをしていると、気持ち良くてついコックリコとしてしまいそう…だが、命名には漁師が山へ登るほどの歴史があった。

名前の由来は後志総合振興局のHPにあるが、「独り歩きの北海道山紀行」に蘭越町史からの引用でより詳しく紹介されているので訪問してみては如何でしょう。

「後志総合振興局(コックリ湖)」

http://www.shiribeshi.pref.hokkaido.lg.jp/sr/srs/midokoro/kokkuri.htm

「独り歩きの北海道山紀行(コックリ湖)」

http://sakag.web.fc2.com/kokkuriko.htm

 山の名前にも摺鉢山・禿山など山容を面白く表した名前があるが、浦河町には「1839峰」という名前の山があり「イッパサンキュウホウ」と読む。国土地理院地形図には標高1842メートルとあるので山の高さを表した名前ではないかもしれない…とも思えるが、ひょっとすると銘々された時点より三メートルほど成長(隆起)したものかも知れないな~…と思っていたら、実は、命名時より後の測量によって現在の標高が確定されたそうだが、その測量がいつされたのかは定かではないとか…。

 このように湖沼名・山岳名にもユニークな名前がありますが、数の上からも滑稽さの度合いからも川名には太刀打ちできない。

ご存知の方も少なくないと思うが、北海道の多くの地名はアイヌ語に由来するので、長万部(おしゃまんべ)・稚内(わっかない)など初めて目にする本州の人たちにはなかなか読めない地名が多い。前述アイヌ名登録にあたった調査官の仕業(!)である。

時々テレビ・新聞などで取り上げられている由仁町の「ヤリキレナイ川」は、ネット情報も多く、道道六号に架かった橋のたもとのほかに数カ所川名を書いた看板が立っているので、ネットサーファーもドライバーも目にしている人は少なくないだろう。20年ほど前だったか、この看板を背にした写真で、テレビ局から四万円ナリをせしめた賢者がいるとか…。

最上流部までガッチリと護岸工事されているのが不思議なくらいに小さな流れだが、かつては有名なアバレ川で、毎年のように氾濫していたのだという。

「このアバレ川にかかっては、やりきれない…」との農民の呟きが由来であることが伝えられているが、ヤラ・キロロ・ナイ(破れる・力の・川)というアイヌ語名を忘れては面白味に欠ける。

「破れる・力」は洪水を意味していて、アイヌ語名の意味と音にちかく、滑稽さの中にも川の性格や人との関わりを手短に言い表わした、北海道川名のグランプリなのです。

全長四・五キロの小川としては知名度の高い川名だが、本流・夕張川を四~五キロ下った栗山町に、ヤリキリナイ川という川があるのはあまり知られていない。アイヌ語の語源的には同じだろうと思うが、どちらもニンマリとしてしまい親しみを感ずるではありませんか。(続く)